「RIZAPみたいにはしないで」
「ジムのバナーを作ってほしいんですが、黒と金を使ったオラオラ系は苦手なんです」
ある日、地方都市でパーソナルジムを経営するクライアント様から、こんな相談が舞い込みました。
ヒアリングを進めると、要望は非常に明確に聞こえました。
「ターゲットは運動が続かない初心者の方です。だから、安心感や優しさを伝えたい。デザインはシンプルで、落ち着いたトーンでお願いします」
多くのデザイナーはここで、「アースカラー(茶色や緑)を使った、カフェのような静かなデザイン」を作り始めるでしょう。
しかし、ここには大きな**「罠」**が潜んでいました。

言葉と好みのギャップ
制作に入る前、私はまずクライアントが「いいな」と評価している参考画像を徹底的に分析しました。すると、驚くべき事実が見えてきたのです。
口では「落ち着いたトーン」「シンプル」と言っていたのに、実際に彼らが高評価をつけていたデザインは……
「ブランドカラーの鮮やかなピンク」が使われ、「アイコンで情報が整理された」、むしろポップで分かりやすいデザインだったのです。
ここに、クライアント特有の**「言語化のズレ」**があります。
彼らが言う「シンプル」とは、「何もない(Minimal)」ことではない。
**「情報が整理されていて、パッと見て分かりやすい(Organized)」**ことだったのです。
もし私が言葉通りに「何もない地味なバナー」を出していたら、きっとボツになっていたでしょう。「なんか寂しいね」「やる気が出ないね」と言われて。

「頑張らせない」を可視化する
方向性は決まりました。「白ベースで清潔感を出しつつ、ピンクで視認性を上げる」。
次にぶつかった壁は、**「写真選び」**です。
ジムのバナーといえば、ダンベルを持ち上げるカッコいい写真や、ランニングマシンの写真が定石です。しかし、今回のターゲットは「運動が続かなかった人」。汗だくでトレーニングしている写真を見せられて、「やりたい!」と思うでしょうか?
「いや、むしろ『ウッ、しんどそう』と引いてしまうはずだ」
私は思考を切り替えました。
数ある素材の中から選んだのは、トレーニング中の写真ではなく、**「トレーナーが会員様の背中を優しく支えている写真」**です。
「鍛える場所」ではなく、「支えてもらえる場所」。
「頑張る場所」ではなく、「安心できる場所」。
この写真をメインビジュアル(主役)に据えることで、言葉以上のメッセージを視覚的に伝えることにしました。

「四隅の誘惑」を断ち切る
レイアウトの検討中、ふと「写真を四隅に小さく配置して、賑やかさを出してみては?」というアイデアが頭をよぎりました。
しかし、私はこれを即座に却下しました。なぜか?
**「スマホの画面でそれを見たら、何が写っているか分からないから」**です。
ターゲットはスマホユーザーがメイン。小さな画面で写真が豆粒のようになってしまっては、最大の武器である「トレーナーの優しい表情」も「店内の清潔感」も伝わりません。
武器は、大きく使う。
私は迷わず、画面の上半分を大胆に写真一枚に絞りました。

論理(ロジック)でデザインする
完成したデザインは、極めてロジカルな構成になりました。
【感情】
ファーストビューで「支えられている写真」を見せ、安心させる。
【共感】
「一人では続かなかったあなたへ」と悩みによりそう言葉を置く。
【解決】
最後に「ダイエット・運動・健康」のアイコンで、何ができるかを明示する。
上から下へ、視線が流れるだけで「ここなら私でも続きそう」と思わせるストーリーです。
納品時、私はただ画像を添付するだけでなく、「なぜこの写真なのか」「なぜこのレイアウトなのか」を解説した提案文を添えました。
デザインは、感覚で作るものではありません。
**「誰に、何を伝え、どう動いてもらいたいか」**という計算の集大成です。

「シンプルにしてください」
その言葉の裏にある、クライアントさえ気づいていない「正解」を見つけ出すこと。
それこそが、私たちの仕事なのかもしれません。

私が作成したバナーは・・・


案件を勝ち取れるかどうか・・・



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